漫画と比べて、小説はココがいいよ!(オタクの視点から)

うちは兄弟揃ってオタクなわけだが、ジャンルが若干違う。
ぼくが少年漫画で、弟が少女漫画。
ぼくがバトルもので、弟が日常もの。
ぼくが燃えで、弟が萌え。
外から見たらどっちもどっちなんだろうけど、オタクからしてみればこれは決定的な人種違いである。同じアメリカ人だけど、白人と黒人、みたいなイメージだ。


しかし、決定的な差異はもう一つある。
弟は漫画しか読まないのだ。
小説は、「字を読むのがめんどくさい」「字だけで想像しなきゃいけないのが辛い」と言う。
からしてみれば、これはびっくりである。
だって、漫画もセリフは字じゃないか。
漫画も音や色はなくて、想像任せじゃないか。
反論の言葉はポンポンと出るのだけど、弟は納得いっていない様子だ。


いい機会なので、ここで小説のメリットをまとめてみようと思う。
すごーくオタク的な話ばかりなので、硬派な小説好きの方はスルーしてくれてかまわない。


・自由に想像できるよ!

 弟がデメリットとみなしていた「想像」という部分は、見方を変えればそのまま小説のメリットとなる。
 なにせ、漫画で言うところの絵柄やキャラ像さえ自由なのだ。
 例えば『インシテミル』のような心理戦ものを、小畑絵でデスノ風に作り上げるのも、福本絵でざわざわ言いながら読み進めるのも、読者の自由だ。お好きなら、鬼頭絵で想像してみると、また新しい扉が開けるかもしれない。
『バルタザールの遍歴』なんてのは完全に萩尾望都の世界観だし、『平成トムソーヤー』を浅野いにお絵で考えてみると、こりゃまたいい感じだ。牧野修の『MOUSE』を寺田克也に描いてもらうなんてのもわくわくが止まらない。
 話はちいと変わるが、ことラノベにおいてもこの利点は活きている。
 マンガ絵の絵柄なんてものは20年もあれば確実に時代遅れになるが、そしたら表紙絵だけを差し替えて現代風に仕立て直してしまえばいい。そうすりゃまた売れる。同じ作品が何度でも。
 ハヤカワ文庫なんかはうまいことやってるよね。

コスパがいいよ!

 たとえば学生たちの一年を追った物語、その原案があるとする。
 漫画でこれを描こうと思ったら、最低5〜10巻は必要となるだろう。読もうと思ったら、一冊500円として2500円〜5000円程度をつぎ込まねばならない。
 一方、小説ならこれを一冊に収められる。
 リアルタイムのシーンを連ねて物語るしかない漫画と違い、時間を圧縮するなんてものは小説にはお手のものだからだ。文庫で出るなら500円、単行本でも1500円程度で済む。
 同じ密度の物語を楽しもうと思ったら、小説のほうがはるかにコスパが高いのだ。
 一作品ごとに掛かるお金が少ないから、大量の作品に触れられる。オタクなんてものは、作品数がなければやってられないんだから、これはきわめてありがたい。
 ただし、これはお金のない学生の意見だ。
 社会人になって「お金>時間」となれば話は変わるかもしれない。お金は多少掛かっても、時間を掛けずに楽しめる漫画のほうがいい、という風にもなるだろう。

・既存作品の量がすごいよ!

 漫画は「絵」と「話」が作れなければ、描けない。
 これに比べて、小説は「話」さえ作れればなんとかなる。文章なんて、最低限日本語が整っていれば許容されるからだ*1
 それゆえ、執筆人口は小説のほうが格段に多い。
 また、歴史の長さが違う。手塚治虫を紀元とするなら、漫画の歴史はたかだか60年そこそこでしかない。一方小説は、ドン・キホーテを紀元とするなら、およそ400年もの歴史がある*2
 この差は大きい。
 積み重なってきた作品総数が違うから、傑作の量も尋常じゃない。
 いろんな人が書いているから、実に多種多様なジャンルが存在する。
 これに手を出さないでいる、と言うのは、オタクとして非常にもったいない。そもそも漫画の物語性というのも、すべて小説から始まっているのだし。


こんな感じだろうか。
ぼくはオタクというのは、要するに「物語フェチ」の連中なのだと思っている。
面白いお話に対して貪欲で、魅力的なキャラクターに対して貪欲で、今までにないような発想に対して貪欲で。
彼らこそ、小説を読むべきだと思うのだ。

*1:純文学などは別だ。

*2:近代小説、と限定した場合。